2024/09/30 11:02
映画『あんのこと』を観てからというものの、目を逸らしていた薬物依存の話題について真面目に向き合っています。夏のはじめに、薬物依存回復施設で覚せい剤を使用した方たちが逮捕されたという報道がありました。
どのニュースを見ても、その施設名を報じ、中には、逮捕者も実名で報じているものもありました。
依存症からの回復は大変な道のりで「失敗」も多いと聞きます。違法薬物である以上、「失敗」が逮捕につながってしまうこと自体は仕方ないように思いますが、施設名や被疑者名を報道するのは誰のためでしょうか。
報道を見た一般の方々は、「薬物依存者が集まるなんて怖い」、「近所にできたら嫌だ」と思うかもしれません。でも、薬物依存から回復しようとしている人の多くは、孤独を抱え、やっと仲間を見つけて、一日一日を必死に生きている普通の人です。社会の隅っこで静かに生活しているという意味では、むしろ地味な人なのかもしれません。私も、所謂一般の方々の一人ですが、回復施設で必死に生きている人への応援のつもりで、綴らせてもらっています。
まず、「覚せい剤使用」という響きと、著名人が逮捕された際の報道などから、実名報道されて当然と感じるかもしれません。でも、覚せい剤使用は、とても件数の多い事件で、著名人でない限りいちいち報道されないというのが、専門家の感覚だそうです。
報道の基準については、本件に限らず小さな事件で「犯罪者」のレッテルを貼り、更生を不可能にする有害な報道がとても多いと感じています(今回は割愛します)。薬物事件を報道する際も、その具体的な内容と、当事者の今後の人生への影響を考える必要があります。「逮捕された」という事実を前に何も言うことができない相手だからこそ、その置かれた状況をよくよく酌んで考えてもらいたいです。
著名人が薬物事件で逮捕されたあとに、「もう二度と手を出さないとは言えない。怖い」と、依存の怖さを率直に語れる空気が醸成されつつあります。その背後には、回復施設や病院で、必死に毎日を生きている人が数多くいます。依存症に陥ってしまう人は、虐待やDVなど家庭環境の問題を抱え、孤独な人が多いとされています。薬物依存からの回復には、セラピーよりも、むしろ仲間を持つことが有効だという調査結果もあるようです。
また、仕事で付き合いのある専門家の先生から回復施設の印象をお聞きしました。施設では、地域のボランティア活動に励みながら、薬物だけでなく、アルコールなど薬物依存のきっかけとなるものも「今日一日使わない」ことを目標に励まし合う男の人たちが、質素な共同生活を営んでいて、
地域の集まりに参加したんだっけと錯覚するくらい、どこにでもいる人の集まりという印象だそうです。
さて、以上の状況での実名報道です。社会の隅っこで、普通の暮らしを手に入れようと静かに努力している人達の「失敗」を、実名をあげて声高に喧伝する報道。依存症を回復する施設がなくなった方が良いのでしょうか。刑事施設だけで依存症から回復させることなんてできないし、レッテルを貼って見せしめにしても、回復を遅らせるだけ(註)なのに。失敗した人を受け入れられない社会は「失敗できない」社会であり、結局、「普通に生きているつもり」の人までも息苦しさを感じる社会だと思います。
報道を受けてショックを受けている回復中の方は、どうか気にせずに、いつも通りの「一日を生きる」生活を続けてください。「失敗」に寛容であってください。それが息をしやすい社会を作ることにつながるはずです。
(註)薬物依存者への制裁、厳罰化が回復を遅らせているという研究結果があるそうです。
文・写真=山下潤平|絶賛『虎に翼』ロスの30歳、会社員。新総理に期待することは薬価制度の見直しです。