2023/09/20 20:44
まーちゃんのこと。
まーちゃんは絵の先生。藝大を出て“散歩と芸術”を軸に画家活動をしながら時折大学などで教えており、かつて私が勤めていた美術の学校で知り合った。
年齢不詳な長髪と髭面、ずれた大きなメガネ。いつも文庫本を片手に丸め、実家から電車を乗り継ぎ、姿勢良く飄々と学校へやって来る。
柔らかな口取りでさらりと授業を終え、日が暮れる頃の工房に講師と生徒たちがわらわらと集まり、お酒を飲み始める。最初はしずしず酒を嗜み芸術を語り合うも、最後はしっかり酒と場に呑まれ大暴れする典型的ないじられキャラで皆に愛されていた。そして突然ドラマのような展開で、うんと年下の素敵なSちゃんと巡り合い結婚した。
そんなまーちゃんの実家は花火屋兼空手道場だった。
夏が迫る頃はさぞ大忙しなのかと思いきや、まーちゃんはいつもどおり散歩し絵を描き、時々学校へ行く日々を繰り返していた。まだ若くまともでいつだって息苦しかった自分には、まーちゃんの浮遊した存在はとにかく不思議でしかなかった。
春、ある日。まーちゃんから散歩道にある“秘密の場所”でピクニックをしましょうと誘われた。快晴の日曜日、最寄りのT駅に仲間たちがお弁当とお酒持参で集まり、まーちゃんを先頭にゆるゆると歩きだした。東京の端っこの丘陵地、くねくねした坂を登り辿り着いたその場所は、誰ひとりいない一面原っぱが広がりそよ風吹き抜けるとても麗らかな場所だった。皆で乾杯をした途端に私はすとんと深く眠りこけてしまった。帰り際「この場所で寝てしまう人はとても〇〇ですよ。」とまーちゃんがぼそっと言った。〇〇が未だに思い出せないけど、あの場所の桃源郷的な心地良さはいまでも記憶している。
この春、長く住んでいた海辺の町を離れた。ひと夏にいくつかの町の海から打ち上がる花火を続々観てきたが、新しい町では花火大会はなく、住まい周辺での手持ち花火さえ躊躇する。結局YouTubeで壮大な長岡花火大会を観たことと、実家近くのささやかな花火大会へ行ったことだけでこの夏は終わった。
そこはかとない花火への憧れ。
小学生なった子どもと同級生のWくんがT駅に住んでいると知り、ふと池田花火店を思い出し調べたら未だ営業しているらしい……!!
近いうちに子どもを池田花火店へ連れて行き、次の夏の為に好きな花火を選ばせてあげたい。
どうせ、まーちゃんは散歩してお店にいないと思うけど。

文・写真=秋山真弓(保育士)